「…いこうか?」
「それは…かを見……いとわか……い」

が意識を取り戻し始めた時、白衣を着た男たちが何かを話していた。
朦朧とする意識の中、その会話に神経を集中させる。

「定期的に検査を行わなくてはならないな」
「ああ。1週間しても兆候が表れないならば、あれの実験にまわそう」

――ちょうこう?じっけん?

まだ幼いには、何の話をしているのか全くわからない。
ただ、こういうことがまだ続くだろうということだけは二人の様子からわかる。

「おい、被検体が目を覚ましたようだぞ」
「問題ないだろう。どうせ理解などできんさ」

そう言って白衣の一人が笑う。
それをは、開くことのできる右目で見つめる。

「しかし、万が一ということもあるからな。もう一度眠らせておこう」
「ああ」

その言葉の後、薬をかがされたは眠りに落ちた。

そこで目が覚めた。
ズキン、という左目の痛みには顔をしかめる。

「何か、飲もう…」

ぼんやりとする頭を抱えながら、起き上がる。
傍らの時計に目をやると、時刻はまだ夜中を指していた。

「久しぶりだなぁ…」

いつごろからかは覚えていないが、もう随分実験のことを夢に見ていなかった。
少なくとも彼女の記憶が完全に書き換えられた後にはもう見なくなっていた。

部屋を出ると、死体から発せられる特有の嫌な臭いがすっかり消えていた。
雲雀率いる風紀委員が全て片づけてくれたということを雲雀本人からは聞いていた。

暗闇の中、階段を一段一段降りていく。
階段から廊下に出ると、闇夜に慣れた目が人影を捉えた。

「どうしたの、骸?」
「いえ、別に…」
「クスッ。嘘が下手だね」

そういって彼女が意地の悪い笑みを浮かべれば、骸も笑みを浮かべる。
幻覚だとわかってはいるが、それでも彼女の心は落ち着いた。

「君もでしょう。沢田綱吉にあんな嘘をついて…」
「そうだね。でも、あながち間違ってはいないでしょう?」
「全く、そういう問題じゃないでしょう…」

あははと笑いながら、はあの頃に戻ったようで懐かしく感じていた。

「…夢を、見た。この目を手に入れた日の」
「…辛くはないんですか?」
「大丈夫。平気だよ」

そう言っては笑うが、骸は悲しげな表情をしている。

「どうしたの?」
「…そんなことまで、嘘をつかないでください」
「なんのこと?」
。平気だというなら…なんで君はそんなに辛そうなんですか?」

バレちゃったか、と笑う
それに対し、悲しげに、しかし呆れながら骸が答える。

「わかりますよ」
「そうだよね…」
「なぜ嘘をつくんですか…?」
「今の骸は幻覚だから。幻覚には何もできないでしょ?」
「……」

の言葉に言葉をなくす骸。

彼女の言うとおり、今の彼は幻覚である。
復讐者の牢獄の中にいる彼は実体で現れることができない。
たとえ、どんなに望もうとも。

「…ごめん。寝るね」
――」
「おやすみなさい」

そういうと彼女は骸の話を聞こうともせずに部屋へと戻っていった。

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