トントン…

食材を切る音が室内に響く。

台所には一人の女性の姿。
時刻から考えて夕食の支度をしているのだろう。
彼女がふと壁に掛けてある時計を見上げた時、玄関からドアを開く音が聞こえた。

「あら?あなた、今日はずいぶん早いのね」
「…おひさしぶりです。先生」
「あなた…、ちゃん?」

突然の来訪者に女性の笑顔は驚きの表情へと変わる。
来訪者である少女は笑みを浮かべ、彼女へと近づいた。

そのおかしな様子に恐怖を感じた彼女は台所へと向かう。

「ダメだよ」

少女の横にいた子どもが言うと同時に、台所にあった食器棚のガラスや食器が一斉に割れる。
少々怪我はしたが、あと数秒遅ければ彼女に全ての破片が降り注いでいただろう。

「次は確実に当てなくちゃね」

そう言いながら子どもが笑う。
逃げ場を求めて女性はドアへと走り寄る。

「クスクス。逃がさないよ…」

女性がそこから逃げようとドアに手をかけた瞬間、彼女の体は割れたガラス片で覆われた。
血を流しながらゆっくりと彼女は倒れた。

「アハハ!まだまだだよ?」

横にいる子どもが言う。
そして少女はいつの間にか手にしていたナイフを振り上げた。

!!」

ナイフを振り下ろそうとした手は強い力に止められた。
ゆっくりと振り返ると、そこには雲雀がいた。

「…雲雀、さん?」

――あれ、雲雀さんって誰だっけ…。

朦朧とする頭で考える。
が、思い出せない。

「目を覚ましなよ」

雲雀が言う。

「お姉ちゃん、惑わされないで」

傍らにいる子どもが言う。

どちらを信じるべきか、どちらも信じてはいけないのか。
は混乱する。


「お姉ちゃん」

彼らが呼ぶ声が聞こえる。

!」
「お姉ちゃん!」

頭の中でぐるぐるとその声が廻る。
だんだんと彼らの呼ぶ声が大きくなってきた気がする。

視界も歪み始め、とうとうは意識を失った。

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