『お姉ちゃん』
――誰かが呼んでる…。
重たい瞼を開けると、そこには子供の姿があった。
すべてを思い出した今、彼はとても懐かしく感じられた。
『やっと、思い出したんだね』
「うん、思い出した。私は、みんなと一緒にいた」
『そう、一緒だった。だけど』
「火事が起きた」
――そう、施設で起きた火事でみんな死んだ。外出していた私以外…。
火事が起きた日、私は院長先生と共に出かけていた。
私を養子として引き取りたいという両親の家へと行っていた。
家庭環境を知り、それから引き渡すというのが私のいた施設の方針だったそうだ。
私が帰ってきたとき、施設はすでに火の海と化しており、中にいた人は助からなかったという。
『僕らはみんな火事で死んだ。見殺しにされた』
「え?」
『僕らは死ななくても良かった。先生たちはみんな逃げていたんだもの!』
「どういう…こと?」
『あの日、あの火事は誰かが起こしたんだ!!!』
少年が叫び、は現実へと引き戻された。
「、気がつきましたか?」
「ええ…」
院長が優しく微笑む。
――この人なら何かわかるだろうか…。
は先ほどの夢を思い出し、院長に尋ねる。
「院長先生、ひとつ質問してもいいですか?」
「なんですか?」
相変わらず優しそうに微笑む院長。
こんな人が何かを知っているはずはない、と思いながらもは言葉を続けた。
「ここの火事で、先生方はみんな逃げていたって本当ですか?」
「……なんのことですか?」
先ほどまで優しげだった院長の顔が強張る。
それは一瞬のことだったが、は見逃さなかった。
「本当なんですね。じゃあ、あの火事がなぜ起こったのかも知っているんですか?」
「質問はひとつのはずですよ」
「答えてください。それとも答えられない何かが…?」
「ありません!なぜ起こったのかも知りませんよ!」
「…嘘、ですよね?」
明らかに動揺している院長が、それでもなお何かを隠し通そうとしていることには悲しみを覚えた。
そして、それと同時にとてつもなく強い憎しみが生まれる。
悲しみ、憎しみ、怒り――様々な感情がの中で渦巻く。
これは誰の感情なのか、今のにはもうどうでもいいことだった。
ただひとつ、やるべきことがある。
――コイツラヲ根絶ヤシニシテシマエ。
それを言ったのはか、それとも“彼ら”か。
それすらもわからない。
そして何もかもがわからなくなって……
視界は赤に染まった。