「ここは…」
骸に出会ってから数日後。
気がつくとは見知らぬ建物の前に立っていた。
「一体なんで…?」
その施設に自然と引き寄せられていく。
止めようとしても彼女の体は言うことを聞いてくれない。
一歩、また一歩…。
確実にドアに近づいていく。
一歩、また一歩と進み、とうとうドアの前まで来た。
ここを開いてはもう戻れないような気がしたが、自分の意思に反して手がドアのノブにかけられる。
ドアを開くと、なんだか懐かしいような空気を感じた。
「私、ここを知ってる…?」
思い出すことはできないが、この場所は知っているような気がした。
が建物の中を歩き始めてから少しして、後ろから女性の声がを呼び止めた。
「何をしているんです?ここは関係者以外…」
が振り返ると、女性は目を丸くした。
彼女は小走りにに近づき、愛しそうに目を細めた。
「あなた、ですね?元気そうで何よりだわ」
「あなたは…院長先生」
は自分の口から出た言葉に驚いた。
この場所も、この人も、自身の記憶にはない。
「覚えていてくれたのですね。確かここを離れたとき、あなたはまだ6歳でしたね」
――え!?
院長は懐かしそうな目をしながら語っている。
その話が耳に入らないぐらいは動揺していた。
――今、なんて?6歳まで私はここにいた?
そんな話はの両親はもちろん、兄からも聞かされていない。
それに6歳までいたなら記憶があるはずだが、それすらないのだ。
何かの間違いなのではないだろうかとも思ったが、院長の目からはそれはないことが見て取れた。
――嘘だ。嘘だ。そんなはずはない。
「そういえば、もいましたよね…あの火事の日は」
「火、事…………いやあああぁぁぁぁぁ!!」
院長のその言葉が鍵であったかのように、の頭の中にさまざまな記憶がよみがえった。
と同時に、彼女は意識を失った。