「遅い」
宿題を忘れたと取りに教室に戻ったがなかなか出てこないことに苛立つ雲雀。
様子を見に、一度戻ろうとしたその時――
「早く行けって!!」
「何なのあれ!!」
「なんなんだよ!あいつ!!」
慌てている様子で数名の生徒が出てきた。
「君たち、何してたの?こんな時間まで」
「ひ、雲雀さん!?ちょうどよかった!」
「ねぇ、何してたのって聞いてるんだけど?」
「た、助けてください!一人あいつに捕まったんだ!!」
他人の話をまったく聞こうとせず、男子生徒は話し始める。
雲雀は信じられないと思いつつ、自分の学校で何か問題が起きている、ということで仕方なく話を聞く。
「で、ある女が入ってきて…」
「女?」
「そうです。なんか風紀委員だとか言ってました…」
のことを言っているのだろう。
彼女は風紀委員として働いている唯一の女子生徒だった。
――人を待たせておいて何してるんだ、あの女は
そんなことを思いつつ男子生徒の話を聞いていた雲雀だが、彼の説明を聞いて、あることが分かり走り出した。
彼の説明を聞いて雲雀は耳を疑った。
いや、今でも彼の話を信じていない、信じられない。
だから今こうして走っているのだ。
真実を自分の目で確かめるために、彼女がいる教室へ向かう。
「はぁ…はぁ…」
こんなに走ったことはあっただろうか…。
正直、自分でも驚くくらい懸命に走っていた。
――着いた
あの男子生徒に教えられた教室は、暗い校舎の中で唯一明かりがついていたのですぐに分かった。
呼吸を整え、ドアを開ける。
すると――
「!!」
そこには一番見たくない光景が広がっていた。
が怯えた顔をして雲雀を見る。
「ひ…ばり、さ…」
「き、み、何、してるの…?」
部屋はひどく荒れ、所々に血飛沫が飛んだ跡がある。
そして、床には一人の少年――あの男子生徒が言っていた少年だろう――が、血を流して倒れている。
あれだけの血溜まりができているのだ。もう死んでしまっているだろう。
よくみると、その少年は何かに貫かれた傷の他に獣に引っかかれたような傷がある。
「わ…かりませ…っ気がつい…たら…ひっく…こ…なって…て…」
話しながら泣き始める。
その彼女の手には、肘の辺りまで血がついている。
そして、顔や服には返り血を浴びた跡もある。
誰が見ても彼女が少年を殺したことは明らかである。
でも、彼女には記憶がない。
「気が付いたら…ってどういうこと?」
泣き続けるに近寄りつつ聞く。
「え…とです、ね…ひっく…わ…たしっ…ひっく…気を失っ…て、て…」
「泣かないで話して」
「すみ、ませっ」
「少し落ち着きなよ…」
そう言って雲雀がの頭に手を置くと、安心したのか、彼女は少し落ち着きを取り戻す。
「私…宿題を見つけて帰ろうとしたら、この教室の…」
「明かりがついてて気になったから入ったんでしょ?」
「なんで知ってるんですか?」
「さっき出てきた奴に聞いた」
「そうですか…」
「で、コックリさんが終わったあと何があったわけ?」
「え?」
「だって何も無かったら…」
「?」
こんなことしないだろと言おうとして、意識を失っていたことを思い出し、黙る。
そんな雲雀をは不思議そうに見つめる。
「…はぁ…。もういい。その血、できるだけ落としてきなよ」
「ふぇ?」
「帰るよ」
「え?でも、この部屋はどうす…」
「安心しなよ。風紀委員に片付けさせる。あと、君、家に帰ったら生活に必要なもの用意して、出てきて」
「え?何でですか?」
「君が家族のもとにいると…」
「家族、いませんよ」
明るい声、明るい顔で彼女はそう告げた。
「私、今一人暮らしなんです」
「どういうこと?」
「それは…」
「急に止まらないでよ…」
「ひ、雲雀さん…アレ…」
「アレってな…」
そう言って彼女が指している先には一人の子どもがいた。
だが、どこかが普通の人間とは違っていた。
まあ、窓の外に浮いていることで、見てすぐ人ではないということに普通の人間でも気付くだろう。
そうではない何かが、普通の人間では気付かないような何かが違うと雲雀は感じていた。
「さあ、思い出して」
「え?」
「思い出して、お姉ちゃん」
「思い出すって何を…」
「僕たちのこと、あの日のこと…すべてを…思い出して…」
「な、にを…言って…?」
――頭が…くらくら、す、る…い、しき…が…
意識が遠のきそうになる。
だが、誰かに手をつかまれ意識を引き戻す。
「、帰るよ」
の意識を引き戻したのは雲雀だった。
そして、雲雀はの手をつかんだまま、これ以上この場所にいてはいけない気がして走り出した。
が家に着いたのは、午後6時50分を少し過ぎたくらいだった。
学校から家までは、歩いて30分くらいかかる。つまり、学校を出たのは午後6時20分頃だろう。
おかしい。あの教室まで行って、あれだけのことがあって・・・5分しか経っていない・・・。
「とりあえず・・・ご飯食べよ・・・」
そして、台所へ向かう途中で思い出す――あの日のこと。
あの日も、今日みたいに時間が経っていなかった・・・。