教室に着くとすぐに彼女は自分の机へ行き、宿題を探す。
「ええっと…確かこの辺に……あった!」
「 」
「えっ?」
宿題を見つけ帰ろうとする。
立った瞬間、誰かに呼ばれた気がして振り返る。
「?」
だがやはりそこには誰もいない。
――そりゃそうだよね…疲れてるのかな…
聞いたことがある声のような気がしたが、気のせいだろうと思い、頭から振り払おうとする。
そして、ふと時計が視界に入った。時刻は午後6時15分。もう探し始めてから20分も経っている。
「やばっ雲雀さんに怒られる!」
は宿題をカバンの中に適当に入れ急いで教室を出る。
廊下を進んでいると、ふと電気のついた教室が見えた。
もう時刻はとっくに6時を過ぎている。部活動かと一瞬考えたがその可能性はない。
6時以降はたとえ部活動であっても、普通の教室は使わないはずだ。
と考えると、遊びで残っている生徒だろう。それは風紀委員として注意すべきである。
そう思い教室へ近づくと、ドアのガラスから中が見えた。
一つの机を数人で囲んでいる。明らかに遊んでいる。
――何やってるんだろ…
そう思いつつ、ドアに手をかけ、開ける。
すると、中にいた全員が手を止めを見る。
「何しているんですか。もうとっくに下校時刻過ぎていますよ?」
机の上を見てみると、何か書かれた紙と十円玉が置いてあった。
コックリさんでもしていたのだろう。
だが、そんなことには関係ない。
「何なの一体?あなたには関係ないでしょ。とっとと出てってよ」
一人の女生徒が言うと、周りは声には出さないものの、出ていけという目を向けてくる。
――こういうのが一番苦手なんだけどな…
「私は風紀委員です。関係ありますよ」
「んなもん、俺達はしらねぇよ。出て…って、風紀委員!?」
威勢のよかった声が徐々に弱くなっていく。
それほどまでにこの並盛中では、風紀委員…いや、雲雀恭弥の名は恐れられているのだ。
そして、生徒達はひそひそと話を始める。
「…あなた、風紀委員…なのよね?」
「はい、そうですけど…?」
「そう…」
「そんなことより、早く下校したほうがいいと思いますよ?」
「ちょっと待って。今やめる」
そういって机に再び視線を戻す生徒たち。
それにつられても視線を紙へと注ぐ。
『コックリさんコックリさん』
コックリさんを帰そうとつぶやき始める女子生徒。
『どうぞお帰り下さい』
十円玉が動き出す。
だが、その十円玉が動いた先は”はい”ではなく”お”だった。
「え?どういうこと?」
「なんだよ!誰だよ!動かしてんの」
「誰かが動かしてるってそんなわけないじゃん」
「じゃあなんで”はい”にいかなかったの?」
誰も予想していなかったのか、全員驚いている。
だがそんな事情を知らないは紙を見ながらも、やめようとしない生徒たちに苛立ちを覚えていた。
「あの!ちょっとはや…」
十円玉が次の文字に進み、は止まった。
次の文字は”ね”だった。
――”おねえちゃん”だ!
直感的にはそう思う。
何故そう思ったのかは分からないが、確信は持っていた。
そしてまた十円玉が動く―――次は”え”。そしてまた動く。
十円玉が”え”の上で止まった瞬間、は激しい頭痛に襲われた。
「っ・・・!!」
あまりの痛みにその場に立っていられなくなる。
――こんなこと…前にも…
痛みで机上のモノを見ていなかったが、ふと見ると、すでに”ゃ”から移動し始めている。
十円玉が次の文字に近づく。次の文字は”ん”。
すると、今度は歌が聞こえてきた。いや、正確には頭の中で響き始めた。
とおりゃんせ とおりゃんせ
ここはどこの細道じゃ
十円玉が更に近づく。
天神様の細道じゃ
ちっと通してくだしゃんせ
徐々に歌が大きくなる
御用のないもの通しゃせぬ
この子の七つのお祝いに
もう少しで十円玉と最後の文字がかさなる。
お札を納めに参ります
行きはよいよい帰りはこわい
意識が朦朧としてくる。
こわいながらも
とおりゃんせ とおりゃんせ
十円玉が最後の文字と重なり、止まる。
その瞬間、は意識を手放した。