「ふぁ…」
「何あくびなんてしてるの?」
「ふあ!?ごめんなさい…」
ここは風紀委員が、というより雲雀恭弥が使用している応接室。
今日もいつもどおり書類を整理している人間は二人。
――今日もいつもどおり…か…
あれから何日たっただろうか。
あの後、雲雀を家まで送ってからはいたって普通だった。
普通に帰って、普通に寝て、普通に起きて、普通に登校して…。
何もかもが普段どおり…。
――いや、普通すぎる。普通すぎて逆に恐い…。
「はぁ…。何でもいいけど早く終わらせてよ…?」
「はい」
ここまでなら、別に気にしなかっただろう。
が恐怖を覚えた最大の理由は――
「雲雀さん」
「何?終わったの?」
「いえ、そうじゃなくて…」
「じゃあ、何」
「あの…あの時のこと、雲雀さん、覚えてないんですよね?子どもたちに襲われた時の事…」
「だから、何それ。僕が子どもなんかに襲われるわけないじゃん」
「そう…ですよね…」
雲雀があの時のことをまったく覚えていないのである。あの、雲雀が…。
他のことならいざ知らず、やられたことを雲雀が忘れるはずがない。
――雲雀さんが覚えていないなんて…
は最初、雲雀がただ単に忘れてしまっているだけだと思っていた。
だが何日か経ってみるとそれが夢のように感じられ、今ではもう襲われたのが本当に子どもかどうかさえ分からなくなっている。
「雲雀さん…」
「何」
「終わりましたぁ…」
「そう、お疲れ。僕も終わったし、今日はもう帰るよ」
「はぁい…」
疲れきった身体を起こし、帰り支度を始める。
――そういえば、あの日からずっと一緒に帰ってくれるな…
そんなことを考えながら支度をしていると、いつの間にか雲雀はドアの所にいた。
「早くしなよ。鍵、閉めたいんだけど」
「す、すみません!」
急いで支度を終わらせ、雲雀のところまで駆けて行く。
「君、もう少し行動早くしなよ」
「はい…」
中に何もないことを確認し、雲雀は鍵をかける。
「あ…!」
「今度は何…」
「教室に宿題忘れてきてしまいました…」
「はぁ…。先に行ってる」
「すみません…じゃあ、行ってきます!」
そう言っては廊下を駆けて行く。
「廊下、走らないでよ…」