ハンバーガーショップで注文を終え、二人は窓際の席に向かい合って座っていた。

ってこういうとこ初めてなのか?」
「えぇ。親が食事にはうるさくて…」

――なるほど。だから注文するのに時間がかかったわけか…。

伊角はの話に一人納得する。
彼の目の前では、が初めてのファストフードに目を輝かせながらハンバーガーを食べていた。

「そういえば和谷がオレのこと話してたって言ってたけど…」
「はい!プロ試験に何回も落ちてることとか、どこか気が弱いってこととか、おごってくれたりするとか、」
「いや、もういい…」

伊角は和谷にあまり良いことを言われていないようで、軽く落ち込む。
そんな彼の言葉が聞こえなかったようには続けていた。

「あ!でも、本当は囲碁は強いし、頼りになるんですよね!」

が満面の笑みで言う。
なんとなく気恥ずかしくなった伊角は、彼女から目を逸らしながら小さく「そうかな」と言った。
全く接点がなかった二人だが、どうも見ず知らずの他人と違うのはきっと和谷のおかげなのだろう。
伊角が和谷から聞かされていた話では、彼女は初対面の男性相手にはほぼ話せないとのことだった。
しかし、蓋を開けてみれば自然な会話ができている。
見ず知らずの他人ではあれどある程度知っているから話せるんだろう、と彼女と話しながら伊角は一人納得していた。

「ところでこれからどうする?」
「これから…?」
「どこか行くか、帰るか…」
「どこか行きましょう!」
「どこがいい?」
「そ、それは…伊角さんにお任せします!」

笑顔を浮かべる
食い気味でどこかに行きたいという割には、どこに行きたいという目的も決まっていないようだ。
その姿にどこか違和感を覚えながらも、伊角は「わかった」と笑顔を返し、席を立つ。
彼女の分のトレーも下げ、二人で店を出る。

夏に向けて暑さを増していっている外の熱気が二人にまとわりつく。
とりあえず、立ち止まっていても暑さが押し寄せるだけなので、伊角はあてもなく歩き始めた。
そのあとに黙ってはついて行く。

「さて、どこに行こうか…」

伊角が歩きながらへと視線を送る。
は何がそんなに珍しいのか、辺りをキョロキョロと見回していた。

「あ、あれなんですか!?」
「あれって…UFOキャッチャーのことか?」
「ゆーふぉーきゃっちゃー…」

その言葉を初めて聞いたのか、たどたどしく口にする
よほど外へ出ないのか、それとも習い事でもしていて遊ぶ余裕がないのか。
いずれにせよ彼女はかなり世間に疎いようで、それは危うくも見えた。

「何か欲しいものでもあったのか?」
「あのウサギ…可愛いなぁって…」
「…500円で取れるかな」
「え?」
「取ってやるよ」
「ありがとうございます!」

伊角が笑顔で彼女に言うと、は嬉しそうに笑った。

「それじゃ、やるか」

そう言うと、伊角は財布から500円を取り出し投入した。

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