ただ今、土曜日の11時45分。
は指定された時間より15分も早く駅に着いてしまっていた。
――どうしよう。
一人で外出などもしたことのないあやかは、時間のつぶし方というものを知らなかった。
彼女が悩んでいると、向こうから走ってくる人物が目に入った。
その人物は真っ直ぐ彼女の元へ来ると、目の前で立ち止まった。
「わ、悪い!」
「どうしたの?まだ時間より早いよ?」
遅れてきたならともかく、時間より早く来て謝られ、は困惑する。
「オレともう一人、行けなくなった!!」
「え!?」
「今すぐ行かなきゃいけないからからもう一人に伝えておいてくれ!!」
「ちょ、ちょっと和谷君!?」
「頼んだぜ。じゃあな!!」
「あ!……行っちゃった」
和谷はにそう言うと、来た道を走り去っていった。
置き去りにされたは、彼が走っていった方を呆然と見つめる。
「和谷君。私、もう一人が誰かわからないんだけど……」
彼女の声は虚しくも相手に届かない。
頼まれてしまった以上その場を離れるわけにも行かないので、はもう一人が来るのを待つことにした。
そして、待つこと30分。
待ち合わせの時間からはすでに15分も過ぎている。
あまりにも遅いので、今日はもう来ないんじゃないだろうかとが思いかけたその時だった。
「あれ?和谷、まだ来てないのか……?」
和谷、という名前に辺りを見回す。
その名前を発したらしい、背の高い黒髪の人物を見つけるとあやかは恐る恐ると言った体で近寄った。
「あの…今、和谷って言ってましたよね?それって和谷義高君のことですか・・・?」
「そうだけど」
「私、和谷君と同じクラスで…」
「あぁ、君がか!」
「え?」
名乗ってもいないのに名前を言われ、一瞬どきりとする。
「和谷が今日連れてくるって言ってたんだよ」
「そうなんですか…。あ、私のことはと呼んでください」
苗字で呼ばれるの嫌なんで、と小さな声で付け加える少女。
初対面で、しかも男性相手でここまで話せることに彼女自身少し驚いていた。
「だな。オレは伊角」
「あなたが伊角さん……。いつも和谷君からいろいろ話を聞いてます」
「そうか。ところで和谷は?」
辺りを見回し、和谷が来ていない事を確認しながら彼女に問う。
誘った本人である和谷が来られないなどとは思っていないのだろう。
「えっと…急な用事ができたってさっき…」
気まずそうに目を逸らす。
二人の間に沈黙が訪れる。
少しして、沈黙を破ったのはのお腹の音だった。
恥ずかしさに真っ赤になるに苦笑を浮かべながら、伊角が口を開いた。
「と、とりあえずどっか食べに行くか?」
「…はい」
「遅れたお詫びにオレが奢るよ」
「いえ、そういうわけには…!」
「どこか行きたいところは?」
「え?……あの、ではファストフードというのを食べてみたいです」
「それじゃ、あそこに行くか」
そう言って伊角が指差したのはハンバーガーショップ。
が頷くのを確認し、伊角は歩き始めた。