お湯に浸かりながら、今日の事を思い出す。

――楽しかった、な…。

初めて男の子と二人で遊んで、初めて外でご飯を食べて、初めてUFOキャッチャーというものをして…。
たくさんの初めてで溢れていた。
の顔に自然と笑顔が浮かぶ。
が、それも一瞬のことですぐに顔が曇る。

今日、は勉強という口実で外出をした。
遊んでいたことが知られれば、あとから“お仕置き”をされることは覚悟している。
それでも、とは僅かに期待する。

――またあんな風に遊べるだろうか。

それはきっと叶うことのない望みだ。
そのことは彼女自身がよくわかっていたが、それでも望まずにはいられなかった。
もう一度、今度は和谷も一緒に、と…。

そんなことを考えているとドアの開く音がした。

「あれ、入ってたのか?」

入ってきた男がわざとらしくそう言う。

彼は、の義父である秀一。
彼女の本当の父が亡くなり、母親が2年前に再婚した相手だ。
再婚する前から嫌な印象を持っていたが、再婚してからというものこういうことが度々あった。

もう慣れたその行動に動じることなく、あやかは男をにらみ続ける。
そんなをにやりと見つめてから、「すまなかった」と彼は扉を閉めて出ていった。

「はぁ…」

溜め息をつきながら、さらにお湯へと潜る。

――きっと、こんなんじゃ無理だよね。

学校で優しくしてくれる和谷。
そして今日、初めて会ったを楽しませてくれた伊角。
二人の姿を思い浮かべると、彼女は静かに涙を流した。

――和谷くんたちを巻き込むのは、ダメ

彼女は決意を固めるとお湯から上がり、着替える。
義父はもう寝たらしい。
暗くなり、音のしない家の中を歩いて部屋まで向かう。
電気をつけて秀一が目を覚ませば何をされるかわからないため、彼が来てからというものは彼が寝ているらしいときには電気をつけることがなかった。
なんとか部屋へ戻ると鍵をかけて、彼女は眠りについた。

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