がこちらの世界へ飛ばされてから10日以上が経過していた。
食べるものやお風呂など、最低限の生活ができる環境は整えられている。
しかし、外の空気を吸えないということが少なからず彼女にストレスを与えていた。
「早く…このセキュリティと匣の謎を解かないと…」
彼女にしては珍しく焦りを感じている様子だった。
普段は情報屋の娘としての誇りから、彼女は年齢に見合わないほど冷静に情報を分析することに長けている。
そんな彼女が冷静さを欠いているのには、自分の置かれている状況の他にも原因はあった。
――骸…
心の中で名前を呼ぶ。
こちらへ来てから彼女は何度も繰り返していた。
いつもであれば彼から返事があるはずなのだが、ここへ来てからは一度もない。
何かあったのではないだろうかと不安になるが確かめる術はなかった。
ただ一つ、メモに書いてある通りに行動する以外は。
――過去から来たへ
私はこの時代の。
きっと貴女は色々と知りたいはず。
貴女の実力を発揮したら、全てがわかるから。
大丈夫。全てがうまくいくはずです。
落ち着いて。
貴女の知りたいことは全て私の記憶の中に。
情報屋 ――
机の中に匣と共に仕舞われていたメモ。
未来の彼女自身からのメッセージであり、唯一の手がかりである。
「私の実力……。私の、記憶…」
メモの内容を呟く。
この二つからつながることは必ずあるはずだった。
そのつながりを追うことと、セキュリティの解析に10日も費やしている。
もうダメかという考えが彼女の脳裏をよぎる。
――ダメだ。弱気になったら…。
自身に喝を入れるため、両頬を掌でたたく。
そしてもう一度自身へと宛てられたメモを見つめる。
――考えろ。大丈夫、私なら…
そこで気付いた。
未来の彼女から宛てられたそのメモは、一度もこの世界へ来た彼女を私とは呼んでいない。
はそのことを見落としていた。
「そうか…。全ては、彼女の記憶の中。この時代のが知っている…」
理解した彼女は嬉しそうに、机に置かれた匣を持ち上げた。
彼女は最初から手がかりを持っていたのだ。
嬉しさに顔が綻びかけたが、そこではたと気づいた。
彼女の記憶をたどる必要があるということはこの部屋全体が手がかりである。
イコール、この部屋には必要不必要に関係なく彼女の記憶が充満している。
その中から今必要な記憶だけを抜き出さなくてはならない。
そうしなくては脳の許容量を超過してしまい、彼女自身が壊れてしまうのだ。
もちろん、今の彼女にそれだけの力が十分にあるという自信はない。
それでもやらなくてはならなかった。
彼女は覚悟を決めると、神経を研ぎ澄ませた。
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