それは少女に残る、幼い日の僅かな記憶。
少しの間の平和の記憶。
「君、そこで何してるの?」
声のした方へ顔を向けると、そこには黒い髪に黒い瞳の少年が立っていた。
その髪と瞳の色は日本では普通のことだが、初めてこの国へ来たにとっては珍しく感じた。
そのためまじまじとその少年を見ていると、再び少年が質問を投げかけてきた。
「ねぇ、何してるの?」
「あ…。お空を、見てたの」
「空?」
「そう。こうやって外に出たの初めてだから、何していいのかわかんなくて…」
「だから空を見てたの?」
「うん。いつもはお部屋の中からしか見れないから…」
そう言ってはその年齢には似つかわしくない、悲しげな表情を浮かべた。
そんな彼女を見た少年は一瞬困った表情をしの手を握った。
「ねぇ」
「何?」
「何もすることないんだったら僕と遊ぼうよ」
「え?でも…」
突然の提案に驚きと困惑で返事に困っていると少年は歩き出した。
“他人と関わるな”と言いつけられていることを思い出し、一瞬躊躇したものの、少女も手を引かれるままに歩いた。
「ねぇ、君の名前ってなんていうの?」
「私は…」
「って言うんだぁ…」
「あなたは?」
「僕?僕はね、恭弥。雲雀 恭弥だよ」
――!!
少年が自分の名前を言うのと同時に、少女には声が聞こえた。
その声が自分の名前を呼んだことを認識した瞬間、は闇に飲み込まれた。
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