どのくらい歩いただろうか。

一本道だったはずなのに、私はシロウサギを見失っていた。

どうしようか悩んだが、どうすることも出来ないので廊下をひたすら歩いている。
そして、ようやく廊下の果てが見えた。

しかし、どう見てもこれはただの壁である。
…いや、下に凄く小さな扉が付いてるからただの壁じゃないか。

「…向こうに行ったなんてことはないよね?」

とは言ってみたものの、行っていないという保証は何もない。
そうなると全ての可能性をつぶすしかないだろう。
とは思うものの、どうやって進もうか…。
私は、何か役立つものがあればと近くの教室に入った。

その教室は何かのお祝い事があるかのように飾り付けられていた。
紙の鎖にペーパーフラワー、黒板には『おかえり、アリス』の文字。

「アリス…」

さっきの骸の話だと私のことよね?
それじゃあ…

「私はこの世界へ来ている…?」

そんなはずは…ない、よね?
少なくとも自分の記憶には、ない。
しかし、それならこの目の前の『おかえり、アリス』という言葉はどう説明するのか。
…これ以上考えても、覚えていないのならどうしようもない。
仮に過去に来ていたのだとしても、それで現状がよくなるというわけでもないのだ。

「他には何かないのかな?」

と見回していると、バスケットが置いてあるのを見つけた。
蓋の上には『わたしをたべて』と書かれたメモ。
見るからに怪しいのだが、開けないことにには何があるのかわからない。
恐る恐る蓋を開ける。

「腕…!?」

白い腕の形をしたそれに驚いたが、すぐに気づく。

――においが、しない。

死体から発せられる独特なにおいがない。
ということは、これは死体ではないらしい。
……凄い悪趣味。

「さて、どうしたものか…」
「何か困っているんですか?」

ん?この声は…

「骸!!もう、どこにいたのよ」
「僕はいつも君をみていますよ」

骸の姿で言われると本当にそうなんじゃないかって思う。
骸と私は私の左目を通して繋がっている。
どんなに離れていようと、私が望めば骸からは私のことを、私からは骸のことを見て、感じることができるのだ。

まあ、目の前の人物は骸の姿をしているってだけで本当の骸ではないようなので、彼の考えていることはわからないのだが。
…っていうか、話噛み合ってないよね。

「あの小さい扉を通りたいのでしょう?」
「あ…うん」
「じゃあこれ、食べてください」
「え…」

さすがに見た目的にキツい…。
仮に食べ物だとしても、この形状のものを食べるのは気持ちが受け付けない。
これを迷わずに食べられる人がいると言うなら、連れてきてもらいたいほどだ。

「大丈夫、パンですから」
「…パン、なんだ」

骸の言葉に目の前の腕…もとい、腕パンをじっと見る。
確かに、よく見るとパンらしいとわかる。
随分と悪趣味なパンだ。
なにも人の腕の形じゃなくてもいいんじゃない?

「食べなきゃ、ダメ?」

返事のかわりに眩しい笑顔を向けられ、私は仕方なくパンを一口分千切る。
なるほど。赤いのはジャムだったらしい。
赤いジャムの中にところどころ粒が見えるところを見るに、ストロベリーだろう。
あまり気乗りはしなかったが、それを口へ放った。
…味は美味しい。
ふんわりとしたパン生地に、少し酸味の残るストロベリージャムがよくあっている。
見た目が良ければ最高なくらいに、そのパンはおいしかった。

「骸、食べた…よ…?」

なんだか目眩がする。
…まさか、薬でも入っていた!?
食べたことを後悔したころにはだんだん世界が歪んできて、辺りは闇に包まれた。

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