目を醒ますと、私は教室にいた。
「いつの間に寝てたのかな…」
うまく思い出せない。
たしか誰か友達と話していた…ような気がする。
でも、誰と?
…思い出せない。
「まぁ、いっか」
思い出せないものは仕方ない。
考えたってどうしようもない。
なので、とりあえず大きく伸びをし、残っていた眠気を吹き飛ばす。
さて、今は何時かな?と、腕につけた時計を見る。
現在の時刻は4時。
――そろそろ帰らないとお母さん、心配するよね・・・。
そう思い、教室から出ようとしたその時――
「アリス」
背後から声が聞こえた。
誰だろうと恐る恐る振り返る。
「きゃあ!…って、骸?」
振り返ると、そこにはボンゴレ10代目の霧の守護者である六道骸がいた。
しかし…顔がとても近い。
それに、雰囲気や服装がいつもの彼とは違う。
普段は黒曜中の制服を着ている彼が、普通・・・というには少し派手か・・・まぁ、そんな格好をしていた。
胸元まで開いたシャツにキラリと光るクロスがなんとも妖艶に見えた。
…こんな格好の骸といるのはなんだか照れる。
「め、珍しいね、骸。普段なら制服なのに」
そう言うと、骸は笑顔を崩さずに不思議そうに首を傾げた。
「アリス、僕は骸じゃないですよ?」
「えっ?」
「僕はチェシャ猫です」
えっと…何を言ってるんだろう?
「チェシャ猫…ってアリスに出てくる?」
「それはよくわかりませんが、僕はチェシャ猫です」
えっと…とりあえず骸はチェシャ猫なのね。
目の前の骸が意見を変える様子もないため、もうこれは受け入れるしかないようだ。
「骸、アリスって?」
「アリスは君ですよ。それから、僕はチェシャ猫です」
アリスは私か…それじゃ、私は何かしなければいけないんだろうな。
チェシャ猫、アリス…ときたら、童話のアリスのことだろう。
これが夢であろうと、そうでなかろうと私がアリスと呼ばれる以上はその役割を果たさなくてはならない。
なぜか、そんな気がした。
「ねぇ、骸」
「僕はチェシャ猫です」
「…面倒だから骸って呼ばせて?」
少しして彼は頷く。
とりあえず納得してもらえたようだ。
「私は何をしたらいいの?」
「シロウサギを追いかけましょう」
シロウサギ…うん、なんか本格的にアリスの世界だ。
「とりあえずシロウサギを追いかければいいのね?」
「はい」
「わかった」
骸の返事に頷き、私は教室を出た。