悪夢の数日間から一ヶ月後、の周りは大きく変わった。
雲雀の態度が前より優しくなり、名前で呼ぶようになったし、骸たち黒曜中のメンバーともよく遊ぶようにもなった。
にとって一番の変化は、の兄・が帰ってきたことだ。
彼は見た目こそ良いのだが、重度のシスコンである。
それ故、にとっては最大の問題である。
そしてこの物語の主人公は、そんなの兄・である。
「ー…」
「なに?」
「喉渇いたー…」
あまりの喉の渇きように、ソファで横になったまま妹に訴えかける。
が、はそんな俺を一瞥するとそっけなく
「自分でなんとかして」
と返してきた。
はぁ、昔はもっと可愛かったのに…。
と肩を落としながら、仕方なく飲み物を求めて台所へと向かう。
そう言えばがあんな風になったのはいつからなんだろうか?
昔はお兄ちゃん、お兄ちゃんって着いてきて可愛かったな…。
いや、今でも可愛いのだが。
そんなことを考えながら冷蔵庫を開くと、飲み物がないことに気づいた。
…というか、飲み物どころか食料すらない。
こんな状態ではどんな生活をしてたんだ?
まさか物乞いとか…いやいや、まさかな。
「、物乞いはダメだぞ」
「はっ?」
のいるリビングへと戻り、真っ先に言う。
には理解されなかったようだが…まぁ、いい。
「、買い物行かないか?」
「あー…うん。そろそろ食べ物なくなるし行くかな」
そろそろなくなるというか、全く何もなかったぞ?
なんてツッコミは心の中だけにする。
なんたって俺は優しいお兄ty(略)
まぁ、そんなこんなで買い物に出たわけだが…。
「?そいつ誰だ?」
俺が飲み物を取りに行ってる間に、うちのがよくわからん黒い男と話してやがった。
「えっと…雲雀さんって言って、私の先輩で風紀委員長だよ。雲雀さん、兄のです」
「はじめまして、の兄です」
「ふうん…」
おい、こいつの親出てこい。
挨拶もまともにできないってどういうことだよ?
なんでこんなヤローとが仲良くしてるんだよ、気にくわねぇ。
「、行くぞ」
「え?あ、ちょっと!それじゃ雲雀さん、また明日!」
「またね」
何がまた明日だ。
ホントに気にくわねぇ…。
…ん?また明日?
明日って休日じゃなかったか…?
「、明日って…」
「出かけるから」
えええええ!?
まさかあのヤローと二人でか!?
「俺は認めない」
「お兄ちゃんの許可は必要ない」
おい、兄に向かってなんだその態度は!
…いや、義理なんだけどさ。
ってそういう問題じゃないだろ!?
ああああああ!
なんで俺の可愛いがあんな挨拶すらできないヤローと!!
「おや?じゃないですか?」
いけ好かないヤローが一人増えた。
「骸さん!」
「、誰?」
「あのね、色々あって私を助けてくれた骸さん」
「色々?」
「うん、色々」
あ、その色々っていうのは俺に話さないつもりだな?
素性も知れない男との秘密なんてお兄ちゃんは許しまs(略)
「はじめまして。六道骸です」
「はじめまして。の兄のです」
…さっきのやつよりはしっかりしてるみたいだな。
だが!
「、こいつ絶対何か企んでるぞ」
隠しきれない影の部分が見えてんだよ。
「もう!お兄ちゃん、命の恩人そんなこと言わないで!」
「命の恩人って…それこそこいつが仕込んだかも…」
「お兄ちゃん!!」
「わかった。悪かった」
可愛いを怒らせるわけにもいかないのでそこで引き下がる。
それにしてもは怒った姿も可愛いな。
に言われれば何でもできそうだ。
「骸さんにも!」
「…すみませんでした」
…うん、何でもできるよ。
やっぱりこいつはムカつくけどね。
「それじゃ、帰りますね」
「また明日」
「はい!」
と骸が挨拶を交わす。
…ん?また明日?
さっきも聞いたような…?
「、明日って何かあるのか?」
「明日は…私のいた施設の子ども達の命日…だよ」
「あぁ…」
そうか。
外国暮らしが長くてわからなかったが、もうそんな時期だったか。
ということは、あの二人もから聞いたか何かで一緒に行くのか…。
「…。明日は、俺も行くよ」
「…珍しいね」
本当に驚いたの顔。
目をぱちくりさせる姿が何だか可愛くて、愛しくて。
つい、思ったことを口にした。
「よし、今日は俺が晩御飯つくる!」
「いいけど…食べられるものにしてね?」
笑いながらが言う。
その笑顔はやっぱり可愛くて。
…こうやって冗談を言い合えるのもいつまでなんだろうか。
いつかはも嫁に行くだろうし、俺だって…。
だけど、それまでは俺がを守るんだ。
――それは幼い日の約束。
――遠い遠い昔からの物語。