「一緒に帰ってくれたっていいじゃん…」

――雲雀さんのバカ…

そう心の中で悪態を付きながら、はいつもの帰り道を歩いていた。

「ハァ…」

時刻はもうすぐ夕方。
あたりは夕闇に包まれようとしていた。

「ん?なんだろ、コレ」

ふと、道の脇に何かが落ちていることに気が付く。
普段なら気にしないであろうが、そのときの彼女はそれを拾った。

「御札…かなぁ…?」

かろうじて何かが書いてあることが認識できるそれは相当古いものらしく、ボロボロになっていた。

――こんなものどこから…?

不思議に思い、辺りを見回してみるとそこには暗く細い道があった。

「こんなところに道なんかあったかな…?」

その道はまるでそこだけ空間が切り取られたかのように不気味さを漂わせている。
こういうものには近づかないのが一番だとはわかっているが、はその道へと近づいてみる。

  〜♪ 〜♪

突然、後ろから子どもの歌声が聞こえた気がして振り向いた。…が

「あ、あれ?誰もいない…」

きっと聞き間違いだと思い、はその道へ踏み込んだ。

しばらく歩いていると、また後ろから歌が聞こえてきた。
だが、何度振り返っても後ろに誰かいるわけではない。

「変なの…」

  〜♪ 〜せ♪

―――あれ?この歌、進むにつれて大きくなってる…

後ろから聞こえているはずの歌は、進むにつれてどんどん大きくはっきりしていく。
そして、一度止まったかと思ったその歌は、また聞こえた。

  とおりゃんせ とおりゃんせ

「また、だ…。でも…何、コレ…」

――頭の中に直接響いてくる…!!?

いつの間にか後ろから聞こえていたその歌は彼女の頭の中に響いていた。
頭の中に直接響いてくる歌に、は立っていられずうずくまる。

――な、に…!?この歌…あ、たま…が、割…れそ…

「…めて…!!い、た…い…!やめてぇぇぇぇぇ…!!!!」

異常なほどの痛みに耐えられず、思わず叫ぶ。
すると、急に先ほどまでのことが嘘だったかのように急に痛みは消え、歌も止まった。

「……?」

わけがわからずそこにうずくまっていると、突然、そこに複数の子どもが現れた。

――え?この子たち…今、いったいどこから…。

そう思っているうちに、は子ども達に囲まれていた。

「お姉ちゃん、どこ行くの?」
「……?」
「ここから先は進めないよ?」
「それでも進まないと…」
「進んだって戻れなくなるだけだよ?何にも無いんだ…」
「そんなの行かなくちゃわからな…!?」

は伏せていた顔を上げ、驚いた。
今まで話しかけていた子ども達の顔は苦痛に歪みながらも恐ろしいほど綺麗に笑っていた。
そして、その身体は、皆、どこか一部が致命傷であろう傷を負っている。

――まさか、この子たち…!!

子ども達の姿を見て、は逃げようとする――がもうすでに遅く、子どもたちに捕まる。

「言ったよね?この先へは進めないって…」
「お姉ちゃんはさ、ここで僕たちと一緒に…」

「「「逝くんだ!!!!」」」

そういった子ども達の顔は先程までとは全然違い、獲物を見つけた肉食獣のような顔をしていた。

「!!!!」

――まずい!ここから早く逃げなきゃ…!

そう思ってはいるものの、足に力が入らず、動けない。
なんとか逃げようとするに子どもたちは近づいていく。

「早く逝こう…?お姉ちゃん」

もうダメだ・・・と諦めかけたその時、黒い影が現れた。
それは、見慣れた姿と聞き慣れた声だった…。

「何してんの。早く行くよ」
「ひば…り…さ…っ!?…んで、こ…なとこ…に…?」

恐怖と安堵で今にも泣きそうで、声が上手く出せない。

「道端にカバンが落ちてたからね・・・」
「やさし…ですね…」
「うるさい。この街で死なれたら風紀が乱れるんだ」

そんな会話をしながらも、逃げ道を作るため子供たちを倒そうと片手にトンファーを構える雲雀。
そして、彼女の手をつかみ

「早く立って。君を抱えてだと走れない」

と引っ張った。
すると先程まで足に力が全く入らなかったのに、今度はすんなりと立てた。

「逃げるの?」
「無駄だよ。逃げられるわけがない」
「君たちはもう捕まっているんだから…」
「僕たちの世界に!」

そう言って周りを取り囲んでいた子どもたちは一斉に距離をつめ、さらに逃げ場がなくなる。
だが、雲雀がトンファーで道を拓く。

「行くよ!」

そういって雲雀はの手をつかんだまま走る。
そして、彼女も手をひかれるままに走り出した。

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