友達以上、恋人未満。
私と想い人はそんな関係がずっと続いている。
なんとか進展させたくて色々と仕掛けようとはするものの、相手はサッカー部のキャプテンでしかも先輩。
忙しくてそれどころではないと断念したことが数知れない。
もちろん、私が相手を好きでも相手が私を好きだという保証はないし、進展させようと動いたところで逆効果ということも大いにあり得る。
それでも、私は進展させたかったのだ。

そんなわけで私は今、渋沢さんと共に喫茶店にいた。
来週からはテスト。
部活も休みになり、かつ、渋沢さんの迷惑にならない日は今日をおいて他にあるだろうか!
というわけで、勉強を教えてほしいという口実で渋沢さんを喫茶店に誘いだしたのだ。
勉強なのになぜ図書室ではないのかということについては、察してほしいところだが簡潔に言えば邪魔が入るからである。
が、実際は私がわからない点も少なく、渋沢さんも簡潔にわかりやすく教えてくれるものだから一時間も経たないうちから無言が続いている。
悲しきかな、私にはこういう時に何を話していいのかもわからなければ話題提供してくれるような人物もここにはいない。
これは詰んだというやつでは?…って、諦めたら誘った意味がない!

「あの、渋沢さん」
「どうした。どこがわからない?」

こちらが勉強の質問をすることが前提で返される。
まあそのために誘ったのだから当然なのだが。

「いえ、そうじゃなくて。少し休憩しませんか?」
「疲れたか?」

笑いながら訊ねる渋沢さんに、はいと返しながら机に突っ伏す。
実際には全くと言っていいほど疲れていないのだが、そうでもしなければ二人して黙ったまま時間だけが過ぎていくのだから仕方ない。
そんなことを考えている私の頭を渋沢さんが撫でてくれる。
そうか、と笑いかけるその笑顔が眩しくて、上げかけた顔を再び伏せた。
大きくて温かい渋沢さんの手の感触だけを感じ、渋沢さんが私だけを見てくれる。
大好きなこの時間。

「そういえば、渋沢さんって彼女とかいないんですか?」
「と、突然どうした?」

渋沢さんの表情を見るのが嫌で、顔は伏せたまま聞いてみた。
撫でてくれていた手が止まる。

――やっぱりいるのかな

渋沢さんの行動にそんな風に落ち込みかけた気持ちも「いないけど」の一言でかき消される。
それは私にもチャンスはあるのかも、なんて期待すらさせる。
渋沢さんは、そんな私の気持ちなどお構いなしに「はどうなんだ?」と返してくる。

「いるわけないじゃないですか!!」

反射的に跳ね起きて返す。
私はあなたが好きなのに、という出かかった言葉は抑え込む。
黙り込む渋沢さんは、何かを考えているようだった。
そんな姿もかっこいいのだが、どうもざわざわとして落ち着かない。


「は、はい!」

なんとなく動揺してしまう。
いつもならそんな私の様子に笑みを浮かべてくれる渋沢さんが、今日は真剣な表情のまま。
試合で見るそれとは違う、見たことのない表情にドキリとする。
なんとなく聞いてはいけないことのような気もするのに、視線も話題も逸らすことができない。
そんな空気がここにあるような気がした。

「俺はサッカーで忙しいし、キャプテンだから恋人にかまってやる時間はほとんど作れない」

私の気持ちを見透かしたかのような渋沢さんの言葉に、ガツンと頭を殴られたような気がした。

そう、彼はサッカー部の部員でキャプテンだ。
恋人なんて作る暇なんてあるわけがない。
そんなことはわかりきっていた事実で、でもどこかで「もしかしたら」と期待していた。
あまりの愚かさに彼から目を逸らす。

「それでも」

と続ける渋沢さんの言葉が遠く聞こえる。
恋が終わる瞬間というのはこんなものなのか……とどこかで冷静に考えている自分がいた。
それが何だかおかしくて、心の中で笑う。
何よりもおかしいのは、それでも気持ちは伝えたかったななんて思っている自分で――

「それでも良ければ、。俺と付き合ってほしい」

――嘘。今、なんて?
渋沢さんが、付き合ってほしい?誰と?

――私、と?
夢なんじゃないだろうか、と自身の頬をつねってみる。

――痛い。夢じゃ、ない。
そこまでしてもなお実感がわかない私だったが、心配そうに私の頬に手を伸ばす渋沢さんと視線があう。
少し熱を持った頬に渋沢さんの温もりが触れた瞬間、これが現実だと認識する。

?」
「あ、あの、もちろんです!」

驚きながらも嬉しそうにしている渋沢さんに向けた笑顔は綺麗だっただろうか?

友達以上×恋人未満両想い

――でも私なんかでいいんですか?
――だから、いいんだよ。

2015.05.25