二人
「神田」
「あ?」「ん?」
「ああ、すまん。男の方だ」
黒の教団本部、食堂。向かい合って腰かけ、黙々と食事をしている男女が一組。
髪の長い男――神田ユウは、いつもどおり蕎麦を食べていた。
対する女、神田はベーコンピザを食べていた。
この二人、血もつながっていないし、関係もまったくないのだが、同じ日本人、同じ苗字と言うことで二人一緒にいると厄介なのである。
普段は神田ユウを神田、はで呼ぶのだが、やはり名前を呼ばれると反応してしまうものなのだろう。
まったく関係ないといっても、無愛想な神田には珍しく、をかわいがる…ような素振りをたまに見せる。
妹弟子であり、同じ苗字と言うことで鍛錬に付き合ったりこうして一緒に食事をしたり、も黒髪ストレートだから本当の兄妹のようである。
「で、なんだ?」
神田はもう食べ終わったようで、箸をぱちんとおくと、一度手を合わせてから湯呑に手をのばした。
その様子を見て、いつものように大量の資料を抱えたリーバーは、資料を抱えなおして言った。
「室長が呼んでる。任務だと」
「わかった」
神田はリーバーの言葉を聞くと立ち上がり、食器を下げた。そして、コートを翻しブーツをならしながら室長室にむかった。残されたは、ピザと必死で格闘していた。
がやっとピザを食べ終わったころ、神田が六幻をもって歩いてきた。は神田が去ってからやってきたリナリーと談笑している途中だった。
神田はわざわざの近くまで歩み寄ってくると、の髪をくしゃりとなでた。
「行ってくる」
「いってらっしゃい。帰ってきたらまた訓練つけてね、ユウ」
「ああ」
いつもどおりの仏頂面で、神田は任務にむかった。その後ろ姿を見送って、はため息をついた。
名字が同じだから、と神田は互いのことを名前で呼ぶようにしている。
基本的に下の名前を他人に呼ばせない神田なので、相手がでもあまり反応は良くない。
「…ユウ、今日はあんまり元気ないなぁ」
「いつもああじゃないの?」
「リナリー気付かない? 結構わかりやすいと思うけどなぁ…」
がさも意外そうに言えば、リナリーはちょっとだけ眉をあげて言った。
「愛ゆえに、ね」
見る間にの顔に朱が差していき、がたん、と大きな音をたてて立ち上がった。
「わ、わたし散歩してくる!」
そう言い残して、すたこらと歩き去っていってしまった。
残されたリナリーはため息をつくと、「まだまだ自覚なし、かしら?」と言って、の飲み残した紅茶を飲み干した。
「おかえり、ユウ!!」
「あ、…ああ。ただいま…」
任務から帰ってきて、コムイに報告書の提出を終えた神田にが元気よく挨拶をした。神田は気圧されたように返答する。
「あー…手合わせすっか?」
そういえば、との頭をほぼ無意識に撫でながら約束を交わしたことを思い出す。
任務疲れはあまりないし、このまま鍛練場に向かっても大丈夫だろうと提案をする。
「ううん。今はいい。ユウ疲れてるでしょ?」
「大したことねえ」
「でも疲れてはいるんだ」
「……ちっ」
子犬のようにまとわりつくくせに、意外と人の体調には敏感な。
いつもなら他人の言葉などあしらう神田だが、の言うことなのでおとなしく聞きいれることにした。
「明日、お願いするね」
「ああ。…早朝な。叩き起こしてやるよ」
それはひどい! と頬を膨らませたの額にでこピンをひとつくれると、神田は満足そうに立ち去った。
(いい加減気付けよ、お前は俺の中で一人の女なんだって)
(なんでユウ、嬉しそうだったんだろ…? 不思議だなぁ)
雅さまからの頂き物です。ようやく載せられました!
いやもうね…いただいてからどれだけ経ってんのよ、って話なんですけどね。
移転なさる前に 書いてくださったというのに…。
雅さま、このような素敵な作品をありがとうございます!!