「恭弥の馬鹿!!」
そう叫びながらはベッドに倒れこんだ。
今日、ボンゴレのボスである綱吉から聞かされた訃報。
それは雲雀恭弥――彼女の婚約者の死であった。
「ずっと一緒に居るって言ってたのに…」
彼女の頬を一筋の涙が伝う。
それを拭おうとして、金属が頬に触れるのを感じた。
「あ…指輪…」
それは雲雀がに渡した婚約指輪だった。
――結局、結婚指輪にはならなかったな…
「恭弥の馬鹿…」
そう呟きながら指輪を握り締めた時、ドアをノックする音が聞こえた。
まだ溢れていた涙を拭い、ドアへと向かう。
ドアを開くと、そこには綱吉がいた。
とりあえずドアの前で話すわけにもいかないので、部屋に入れ、ソファに座ってもらう。
二人ともが座ってから少しして、綱吉が口を開いた。
「あの、さん。これ、雲雀さんから…」
「恭弥から…?」
綱吉は頷くと、に一通の手紙を渡した。
そこには確かに雲雀の綺麗な字で『へ』と書いてあった。
「雲雀さん、自分が何時殺されるかわからないから何かあったらこれをって…」
「…ありがとう」
そう言うとはその場で手紙を開封する。
――へ
君がこれを読んでるって事は、僕は君を置いて死んだんだね。ごめん。
本当はもっと側に居たかったんだけど…死んでから言っても遅いね。
僕は君と結婚したんだろうか。
僕のことだから、そんなことできずにいるかな。
やっとプロポーズしたところだったりしてね。
…結婚していたらいいな。
毎日と笑いあって、毎日を抱きしめて、毎日をからかうんだ。
きっと幸せだと思う。
子供も居たらいいな。二人くらい。
仲のいい女の子と男の子。
きっと二人とも君に似て可愛いんだろうな。
少なくとも性格は君に似ていてほしい。
僕に似ていたらひねくれた子になるからね。
…僕は、君に出会って変わったみたいだ。
君に会わなかったらきっとこんなことは考えていなかった。
君に会えたから、僕は人を愛せるようになった。
君に会えたから、僕はこんなにも幸せを望むようになった。
に会ってからの毎日は本当に幸せで、本当に楽しかった。
ありがとう。
こんな僕を愛してくれるが本当に大好きだったよ。
本当にありがとう。
僕はもう君を幸せには出来ないけど、何時までも君の幸せを願ってる。
さようなら、僕の愛しい。
手紙を読み終え、目を伏せる。
雲雀がこの手紙を書いた日付は、プロポーズをする数ヶ月前だった。
その頃から彼が自分との未来を思い描いていたのだと思うと、涙が溢れそうになる。
それを何とかこらえているに、どう声を掛けようかと迷いながら綱吉は言葉を発した。
「あの、さ。雲雀さんは本当にさんが大切だったんだと思う」
「うん」
「だから、雲雀さんはオレに手紙を託したんだろうし」
「わかって、る…」
「なんて言ったらいいかな…。たぶん、雲雀さんはさんには笑顔でいて欲しいんだと思うんだ」
「そう、だろうね…」
「だけど、今くらいは泣いてもいいんじゃないかな」
「えっ?」
「きっと雲雀さんはそんなに辛そうなさんの顔は見たくないと思うよ」
「……!!」
一瞬驚いた顔をすると、は綱吉から顔を逸らした。
少しの沈黙の後、口を開いたのはだった。
「ねぇ、沢田君。恭弥、どうだった?」
「えっ?」
「任務に行くときの恭弥、どうだった?」
「…生きて帰ってくるって、笑ってたよ」
「そっか…」
そう言って、は再び黙った。
そんな彼女を心配そうに見つめながら、綱吉は声を掛けた。
「さん?」
「ありがとう、沢田君。」
「オレは何も…」
「…あのね。きっと恭弥は、帰ってきたら結婚しようとしてたんだ」
「うん」
「帰ってこれるって、信じてたんだ」
「うん」
「それなのに…なんで、死んじゃったのかな…」
そう言うと、彼女はその場に泣き崩れた。
綱吉はそんな彼女を慰めるわけでもなく、ただ見つめ続けていた。
――僕はずっと一緒に居られると思っていた。