「了平……」

目の前の人物の頭に銃口を向けながら、その名を口にする。
泣きながらターゲットを撃つなんて、これが最初で最後。
私は今日、あなたを撃ったらすべてを終わらせるから。

了平と初めて会ったのは、並盛のお祭りだった。
“仕事”の翌日、珍しく休みをもらえた私は初めての日本のお祭りと言うものを見に行った。
そこでトラブルに巻き込まれ、助けてくれたのが彼だった。
それからはメールや手紙でやり取りしたり、時々会っては話をするようになった。
彼の仕事は知らなかったし、私も何をしているかは明かさなかった。
それでも彼と過ごす時間は楽しかった

それも今日でおしまい。
昨日、ボスから受けた命令は――“ボンゴレ晴れの守護者の抹殺”。
仕事自体はいつものものだったが、その対象が彼であると知って動揺はした
。 しかし、私にとって小さいころから育ててくれたボスの命令は絶対だから、消せと言われたら相手が誰であろうと遂行する。
それが、組織での私の存在意義だから。

なかなか引き金を引けずにいると、闇がわずかに晴れる。
どうやら雲に隠れていた月が顔を出したようだ。

!?どうしたというのだ!」

その疑問は、手にした銃に対してか流れる涙についてか。
はたまた、両方なのかもしれない。
いずれにせよ、死にゆく人間には知る必要のない事だ。

ふう、と息を吐いて私は笑顔で了平を見つめる。
きっとこれが最後だから、しっかりとその顔を目に焼き付けておきたかった。
再び辺りは闇に包まれ、相手の姿も見えなくなる。

「ごめん、了平。さようなら」

引金にかけられた指に力をこめる。
鳴り響く破裂音と、温かい返り血が私を――返り血が、ない。
すぐに気配を探る。

――見つけた。
ターゲットは5時の方向、すぐ近くにいる。
流石はボンゴレの守護者の一角である。

「なぜ撃つのだ!!」

その疑問には答えられない。
どれだけ大切な相手でも、組織のことは話せない。
そして、組織の命令は絶対。

だから――

「ごめんなさい」

今度は外さないように、相手へぴったりと銃口をつけて引金を引く。
逃げられないようにと腕も掴んでいたから、今度は簡単に当たった。

彼の体が冷たくなるまで、私は彼を抱きしめた。
やがて、冷たくなった彼を寝かせるともう一度彼の顔を見つめる。
きっともう二度と見ることのない顔。
死後の世界があったとして、私と彼は同じ所へは行けないから。

「さようなら、大好きだった人」

彼の死体にほほ笑むと、私は自身へ向けて銃弾を放った。

笹川 了平編 end