ある日のこと。
いつものように帰っていたとき、突然、は僕に告げた。

「ねぇ、恭弥。私ね、もう疲れたんだ」

それに対して返事はしない。
それが何を意味しているのか、少しだけど感じ取ることが出来ているからね。

「恭弥、もし私がこの世から居なくなりたいって言ったら、」

僕の予想通りであれば、は簡単には答えられない質問を投げかけてくるはずだ。

「恭弥はどうする?」

やっぱりだ。
ねぇ、。それはどういう意味で聞いてるの?

止めるかどうか?
それとも、一緒に死ぬかどうか?
もしかして、僕が君を殺すかどうかじゃないよね?

まぁ、どんな意味でも僕は君が一番望むことをしてあげるだけだけど。

はどうしてほしい?」

こんな返事は予想してなかったのかな?
少し驚いた君の顔。そんな君を見てると君が死ぬことだけは避けたいって思っちゃうな。

……そんなこと、きっと無理なんだろうけど。
だって、君はきっとこの世から消えることを願ってる。
それなら、僕はそれに答えてあげなきゃダメでしょ…?

「私は…」

さぁ、君の答えは何?
そこまで言っておきながら躊躇わないでよ?
僕だって決心が鈍ることもあるんだから・・・。
しばらくして、が再び口を開いた。

「ねぇ、恭弥…」
「何?」

無愛想に返事をする。
無愛想なのはこの心が知られたくないから。

「私と一緒に」

今まで一人で、『孤高の浮雲』として生きてきた僕が、
こんなにも君を好きになってしまっていることを知られたくないから。

「死んでもらえますか?」

あぁ、失敗したな。

最初に質問されたときに止めて置けばよかった。
僕は君のその目に弱いんだ。
君の悲しげなその表情には勝てないんだ。

「いいよ」

その瞬間、一瞬見せた君の隙。
僕はそれを見逃さず、そっと彼女の唇に自分の唇を重ねた。

せめて最後にこれくらいは許してね…?

「大好きだよ」

だから、僕は君の望みを叶えてあげる。
さぁ、君の好きな様にしなよ。

僕が最後に見たものは返り血にまみれて立っている彼女と、僕から溢れる赤だった。

雲雀 恭弥編 end