「隼人…」
机に向かい何かをしている彼の背中に向けて愛しいその名を呼ぶ。
振り向きざまに「何だよ」とぶっきらぼうに言う彼が私は好きだった。
「最近、忙しそうだね」
「まあな」
これも十代目のためだと笑う隼人。彼のそういうところが好きなのだが、やはり時々悲しくなる。
「お休みは、ないの?」
「しばらくはな」
しばらくはしばらくは。そう言ってもう何ヶ月になるのか。
休むことなく十代目のためだと言って働き続ける隼人。
気付いていて無理をしているのか、はたまた気付いていないのか。彼は非常にやつれた…と思う。
「、どうした?」
別に、と顔をそむける。
今の隼人の顔は、見ているのが辛い。それほどに彼は疲れた顔をしている。
「隼人…コーヒー飲む?」
「ああ。悪い」
それだけ言うと彼は再び机に向かい作業を始めた。
私はキッチンへと向かうと、コーヒーを落とし始めた。落とし終えたコーヒーを注ぐと、ある液体をそこへ混ぜた。
「…これで彼も苦しみから解放される」
これからのことを考えると自然と鼻歌が出た。
きっと彼は私に感謝してくれる。休みをくれてありがとうと。
そうしたら私は笑顔でこう言うの。あなたのためだよって。
それから二人はずっと一緒にいるんだ。ずっと、ずっと…永遠に。
隼人の部屋へ入ると、彼の机の上にカップを置く。
「サンキュー、」
そう言って彼はコーヒーに口をつける。
隼人は一口飲むと私に笑いかけた。
「やっぱりの淹れたコーヒーは……!?」
苦しそうに目を見開き、もがきながらうずくまる隼人。
大丈夫。その苦しみは一瞬だから。
やがて彼が動かなくなると、私も彼が飲んだコーヒーを口にする。
苦しみの中、私はそっと目の前の隼人の手を握る。
ねえ、隼人。これで私たちはもう苦しまなくて良いんだよ?
これでずっと二人で…。
薄れゆく意識の中、最後にもう一度彼の顔を見つめると私はそっとまぶたを閉じた。
獄寺隼人編 end