狛枝凪斗――超高校級の幸運。
それが、私の彼氏。
なのだけど…

「凪斗くん。」
「なに、さん。」

未だに名前で呼んでくれません。
付き合ってひと月、一度も呼ばれたことがありません。
それどころか手も繋いだこともないので、そもそも付き合っているのかどうか…。

「あの、私たちは付き合っているんですよね?」
「そうだね。」

いつも通りの人の好さそうな笑顔で答える凪斗くん。
って、そういうわりに恋人っぽいことしてませんよね?
凪斗くんはしたくないのかな?
とか、いろいろと思うところはあるけれど、さすがに女性から積極的というのもどうかと思うわけで…。

「どうしたの?何か考え込んでいるみたいだけど。」

どうやらずいぶんと考え込んでいたようだ。
先程まで「ボクみたいなのがさんと付き合えるなんて…」といつも通りに続けていた凪斗くんが、心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

「なんでもないよ!」

笑顔で嘘をつく。
嘘をついたところですぐにばれてしまうことはわかっているけれど、嘘をつく。
凪斗くんが気づかないわずかな可能性を願っていたのだが……

「嘘だよね。」

簡単に見破られた。
こうなることはわかっていた。
しかたない、と腹をくくって彼の目を見つめる。

「凪斗くんと、あんまり恋人らしいことできないから…。」
「たとえば?」
「えっと、名前もそうだけど、手をつないだり…き、キスしたり…。」

だんだん顔が火照って来ているのがわかる。
面と向かってこういうことを言うのは恥ずかしい。
凪斗くんを見ていられなくてうつむいたので、彼がどんな顔をしているのかわからない。

「ああ、そっか。うん、そうだったんだね。」

凪斗くんが何かを納得したようにそう呟くと、急に私の手を取り握りしめてきた。
急なことに驚いて顔を上げればすごく真剣な顔をした凪斗くんの顔がすぐ近くにあった。

「あ、あの凪斗くん!?」
。」

どくん。
初めて呼ばれる自分の名前に心臓が跳ね上がる。
心拍数がどんどん上がり、このままこの苦しさで倒れてしまうんじゃないかと錯覚する。

「つまり、ボクがしたいことしていいってことだよね?」

そういいながら顔に手を伸ばされる。
つい反射で目を瞑れば、そっと唇に暖かいものが触れた。
少しして、ようやくそれが凪斗くんの唇だとわかった。
しばらくして離れると、今度は凪斗くんに抱き寄せられた。

「な、凪斗くん??」
「ホントはボクもずっとこうしたかったんだけどさ、ボクなんかがこんなことしていいのかって思ってたからさ。」

アハハ、という笑い声が頭上からふりそそぐ。

凪斗くんの、声。
大好きな、落ち着く声。

「凪斗…大好きだよ。」
「ボクもだよ、。」

そして二人はどちらともなく口づけを交わした。

恋人として。

あとがき(以下反転)

基本的に狛枝は積極的か冷たいかのいずれかだと思っていました。
それなのになぜこんなに奥手な狛枝くんが出来上がったのか…昔のことは私にもわかりません←
生産性のないあとがきでスミマセン(汗)

2015.08.03